特別連載:万博と再生の森③ 自然の波を植える オランダパビリオン



~EXPO’70から2025年へ、そして未来へつなぐランドスケープの物語~

私たちBRICK GARDEN ARCHITECTSは、2025年大阪・関西万博にて、オランダパビリオンのランドスケープ計画に携わるという貴重な機会を頂きました。
それは単なる一時的な「万博のデザイン」ではなく、日本の地で受け継がれてきた自然観や“森づくり”の哲学、そして未来社会に向けた新しい環境の提案を形にするプロジェクトでした。
この連載では、3つの視点からこの挑戦を振り返ります。

第3回:「自然の波を植える」
 
2025年大阪・関西万博。
私たちBRICK GARDEN ARCHITECTSが携わったもう一つのプロジェクト。
それが、オランダパビリオンのランドスケープ計画でした。
 

EXPO2025 公式HPより



オランダから届いた“自然”のビジョン
 
すべての始まりは、RAU建築設計事務所から届いた一枚のランドスケープイメージ。
そこに描かれていたのは、オランダから欧米を席捲したガーデンデザイナー、Piet Oudolfが提唱する「Naturalistic Gardenナチュラリスティック・ガーデン」の世界でした。

Naturalistic Gardenとは、植物本来のありのままの姿で表現する景観と四季の移り変わりを楽しむものであり、ハイライン(NY) やサーペンタインギャラリー(London) でも話題になったガーデンデザインの新しい潮流とも呼べるものです。
消毒や施肥など人の手を入れて美しく仕上げるバラなどの従来の園芸とは対照的に、より丈夫な宿根草をふんだんに用いるため、新・宿根草主義(New Perennial Movement)とも呼ばれます。
日本にも古来よりある考え方「適地適草」という考えとも通じるところは多く、自然と共にある庭のあり方を見つめ直す契機にもなりました。
 

2011年の英国サーペンタインギャラリー



オランダパビリオンのコンセプト“Common Ground”
 
オランダパビリオンのコンセプトは「Common Ground: creating a new dawn together(共通の基盤:共に新しい夜明けを創造する)」

再生可能エネルギー、特に水の力を活用したゼロエミッション技術を紹介し、持続可能な未来への道筋を提示することを目的としています。
建築は完全循環型で構成され、その中心には「人造の太陽」とも称される発光体が設置され、無限のクリーンエネルギーの象徴として、来場者に新たな可能性を体感させる構成となっています。
 

EXPO2025公式HPより


「適地適草」で描く、季節によって変化する景観

このビジョンを、人工島・夢洲の過酷な環境(潮風・猛暑・乾燥)でどう実現するか。

計画に際しては、「適地適草」という考え方とオランダから送られてきたイメージにある草花を念頭に、Naturalistic Gardenのコンセプトを守りながらも大阪・夢洲の地において生育が可能な適切な草木花を選定し、自然な形で植栽することが重要であると考えました。
 
草原に佇むパビリオンのイメージですが、短期間でしかも真冬に草原を作ることは困難であるため、過酷な環境に耐性のあるオーストラリアの低木ブッシュや地被系の植物にて骨格を作り、エリンジウムやエキナセア等の背丈の出る宿根草をダイナミックなブロックプランティングをしました。また各所に散りばめるようにグラス系をスキャッターしていますので、オージープランツを中心にした春の景観から、夏にかけて各所に宿根草やグラスが立ちあがり、新しい景観を創出します。
 
秋には草花の立ち枯れた姿をも自然の景観として尊重したデザインです。
 
また、ナチュラリスティックガーデンに代表される植物に加えて、ワレモコウ・フジバカマといった日本の草原を想起させる草花も随所に加え、季節とともに移ろう、奥行きある風景を目指しました。




水辺の風景と“月見”の演出

◇水の波形
オランダパビリオンの波型の外装は水を表現しており、展示内容も水と人間の関係性を表現しています。
スモーキーな栗石の配置や植栽のレイアウトは、水際の波形のようにリズミカルかつ不規則に配置とすることで、パビリオンのイメージやコンセプトと呼応するデザインとしました。
万博協会側の境界形状は稲妻型に角が立っており、やや攻撃的なイメージであったため、パビリオンとの間の美しい緩衝帯になったと思います。




◇月見
パビリオンの前の「オランダ(日本語)」のサインの後ろには、グラス系の植物でブッシュを構成し、その中に大株のススキ・シロガネヨシ(Cortaderia selloana)を混植しています。
日本では古来より、満月の月見の際にはススキを飾る習わしがあります。特に10月の月は最も美しいとされ、10月の月見は一年の収穫などに感謝する行事です。
パビリオンのメインの顔であるスフィア(球体)とススキが重なり合う景色は、オランダと日本の文化が交差し、共鳴する場面として、人々の記憶に残る風景になると信じています。




未来へと育つ風景

今回の計画は、植栽された時点で完成するものではありません。
小さな苗たちはこれからこの地に根を張り、季節の移ろいとともに表情を変え、時間をかけて、唯一無二の風景へと育っていきます。

私たちは、この始まりの瞬間に立ち会えたことを、誇りに思います。

夢洲の風と光、そして人々の想いを受けて、この庭がゆっくりと成長していく未来を、心から楽しみにしています。




締めくくりに

EXPO’70から2025年へ。
そして、その先の未来へ。
 
森を再生し、いのちをつなぎ、風景を育てる——。
その営みの中に、私たちはランドスケープの本質を見つめています。

この挑戦の機会をいただき、建築・ランドスケープのビジョンを共有させていただいた
RAU建築設計事務所、株式会社淺沼組、阪急コンストラクションマネジメント株式会社の皆さまに、心より感謝申し上げます。
また、現場に関わってくださったすべての皆さまにも、心から御礼申し上げます。


未来へと育つこの風景が、たくさんの人々にとって新たな記憶となりますように。

 
BRICK GARDEN ARCHITECTS 株式会社
代表取締役 池内一太

2025-04-30 | Posted in |