特別連載:万博と再生の森① EXPO’70ー森に還った未来都市
~EXPO’70から2025年へ、そして未来へつなぐランドスケープの物語~
私たちBRICK GARDEN ARCHITECTSは、2025年大阪・関西万博にて、オランダパビリオンのランドスケープ計画に携わるという貴重な機会を頂きました。
それは単なる一時的な「万博のデザイン」ではなく、日本の地で受け継がれてきた自然観や“森づくり”の哲学、そして未来社会に向けた新しい環境の提案を形にするプロジェクトでした。
この連載では、3つの視点からこの挑戦を振り返ります。
第1回:「EXPO’70 ー 森に還った未来都市」
〜パビリオン跡地から再生の森へ。そして2025年万博へつなぐプロジェクト〜
テーマは「人類の進歩と調和」
日本中の技術と文化が集結し、6,400万人を超える来場者を記録したこの万博は、国家を挙げた一大プロジェクトとして、今も語り継がれています。
その華やかな舞台の跡地が、いまでは広大な森となっていますが、この森は自然の森ではなく“世界的にも稀有な再生の森”であることは、あまり知られていません。
関連書籍や公開されている図面を読み進めるうちに、その魅力にますます引き込まれていきました。
再生公園の歩みに直接触れたいと考えるようになり、大阪府の管理事務所や、指定管理者にも幾度か問合せを重ねましたが、なかなか情報へのアクセスは得られず、もどかしい日々が続いていました。
そんな折、思いがけないご縁に恵まれます。年パスで良く通っていた万博記念公園自然観察学習館の森館長との出会いです。
そして2024年2月、森館長のご厚意とご協力のもと、所属するJAG(ジャパンガーデンデザイナーズ協会)による研修会を開催する運びとなりました。全国から集った会員や一般参加の皆さまとともに、講演と園内視察を通して、“森の再生”という長い営みの足跡をたどる貴重な機会となりました。
ガレキからよみがえった命の風景
万博記念公園の森は、「緑に包まれた文化公園」として55年の歳月をかけて育まれてきました。 その起伏の多くは、解体されたパビリオンのガレキを再利用して造成されたもの。まさに「よみがえる景観」の象徴です。 再生の森として有名な“東京・明治神宮の森”と並び称されるほどの広大な人工の森でありながら、その成り立ちを知る人は決して多くありません。 この森が持つストーリーと価値を、もっと多くの人に伝えたい。 その想いから私はこの講演会をキュレーションさせて頂きました。
専門家の視点から見た森の「今」と「これから」
講演会では、万博の森づくりの第一線で長年携わってきた池口直樹氏(現・大阪府 環農水研 生物多様性センター)を講師にお迎えし、次のようなお話を伺いました。
• 万博開催後の造成から始まった「第2期森づくり」の歩み
• 園内の生態系変化とその分析、そして今も進行する「第3期森づくり計画」
• 持続可能な緑地計画と、森に宿る“未来”の可能性
また、森館長とともに園内を歩きながら、空中回廊「ソラード」などの施設も見学。 現地でこそ感じられる生の学びと、緑地づくりに携わる者としての責任を再認識する時間となりました。
森は生きている。だからこそ、世代交代が必要
講演の中で、万博記念公園の森は、美しく緑豊かに見えても、「生物多様性」という視点から見ると課題も抱えていることを学びました。 時間とともに高木が過密に育ち、林床に光が届きづらくなる「単純林化」が進行していたのです。 それを解消するため、慎重な間伐や伐採によって光を呼び戻し、低木や実生が育つ環境へと整える。 これは、単なるメンテナンスではなく、森を未来へと引き継ぐ再生のプロセスです。
都市公園である万博記念公園は、“子どもたちが最初に出会う自然”。 子どもたちが、自然との触れ合いを通して、感性を磨き、自然の恩恵を学ぶ場として、恥ずかしくない森づくりを進めてきた、という強い信念に心を打たれました。
森は続く。未来へつなぐ再生のリレー
EXPO’70から55年。 跡地に広がる森は、かつての記憶を抱えながら、今もなお静かに成長を続けています。 そしてその森の命が、2025年大阪・関西万博へとつながっていくという、壮大なリレープロジェクトも動き始めていました。
次回は、その“未来への種まき”とも言える、2025年万博の新たな森づくりについてご紹介します。