特別連載:万博と再生の森② いのちをつなぐ森のリレー
~EXPO’70から2025年へ、そして未来へつなぐランドスケープの物語~
私たちBRICK GARDEN ARCHITECTSは、2025年大阪・関西万博にて、オランダパビリオンのランドスケープ計画に携わるという貴重な機会を頂きました。
それは単なる一時的な「万博のデザイン」ではなく、日本の地で受け継がれてきた自然観や“森づくり”の哲学、そして未来社会に向けた新しい環境の提案を形にするプロジェクトでした。
この連載では、3つの視点からこの挑戦を振り返ります。
第2回:「いのちをつなぐ森のリレー」
〜EXPO’70から2025年万博へ、静けさの森に込めた願い〜
再生の森の歩みをたどった第1回に続き、今回は、その想いが引き継がれていく2025年万博でのプロジェクト「静けさの森」についてご紹介したいと思います。
かつての万博跡地で育った木々が、新たな舞台で再び根を張る——。
その一連の取り組みは、まさに“いのちをつなぐ”仕事でした。
命をつなぐ、静けさの森プロジェクト
2025年大阪・関西万博の会場内に設けられた「静けさの森」。
第1回で前述のEXPO‘70万博記念公園にて、伐採される予定だった一部の木々が、第二の人生を歩むかのように移植されています。
直径20メートルほどの池を囲むように、約1,500本の木々が植えられ、来場者が自由に散策したり、木陰で涼んだりと、それぞれの時間を静かに過ごすことができる空間となっています。
この森の設計を担ったのは、E-DESIGN代表の忽那裕樹氏と日建設計。2023年12月より、植栽・移植工事がスタートしました。
私たちも、森の一部をお届けしました
このプロジェクトには、私たちも参加させていただきました。 万博記念公園から移植される約700本のうち、私たちはドウダンツツジやイロハモミジ、アオキなど、趣のある自然樹形の木々を選定させていただき、約30本の移植を担当しました。
30センチも掘れば、すぐにガレキの層にぶつかる。
そんな土地にしっかりと根を張った木々を移植するのは、簡単なことではありませんでした。
少しでも移植後の定着率を高めるために、菌根菌の力を借りながら慎重に作業を進める毎日。
真冬の寒さが身に染みるなか、それでも私たちの心は、不思議と温かいものでした。
新しい万博の森へ、いのちをつなぐ。
その想いを胸に、ワクワクしながら取り組んだ作業は、今も大切な記憶として心に刻まれています。
これらの木々は、50年以上の歳月をかけて育まれてきた命。 その命を新たな地に受け渡すことができたことに、心からの誇りと喜びを感じています。
今、これらの木々は「静けさの森」でしっかりと根を張り、そっと静けさをたたえながら、訪れる人々を迎えています。
現在:静けさの森にしっかりと根付いています。主に北エリア付近です
万博は「一過性」ではなく「循環」へ
かつての万博会場に育った木々が、次の万博へとバトンをつなぐ。 この“いのちの循環”は、単なるデザインではなく、未来の森づくりそのものと言えるでしょう。
次回は、私たちがランドスケープを担当した、オランダパビリオンの物語をご紹介します。 「静けさの森」からつながる、もうひとつの“いのちの風景”です。